スケジュール Schedule

2004.6.1

2004.6.1
原点から未来へ続く道 〜From Bach to Contemporary〜


皆様、お久しぶりです!
このところ、メッセージをなかなか更新できずにおりましたが、それにもかかわらず、多くの方々からあたたかい励ましの応援メッセージをいただいておりました。
ありがとうございます。心から御礼を申し上げます。
言葉で表現し、伝えることに難しさを感じてウェブ上でのメッセージ発信をしばらく躊躇しておりましたが、その分演奏活動を充実させ、ステージからの皆さんとの交流を通じて「伝えたいこと」を表現してきたつもりでいます。
各地でのコンサートを通してのたくさんの出逢いに、心から感謝しています。


さて、このたび6月29日に、オペラシティの 【B→C(ビートゥーシー) バッハからコンテンポラリーへ】 に出演させていただくことになりました。 この東京オペラシティの人気シリーズは、プログラムの中に、必ず 【バッハ作品 と コンテンポラリー=現代曲 を入れる】 という約束があり、その決められた枠の中で各演奏者の個性をいかに表現するか、という所に醍醐味があります。

正に文字通り 「新たな挑戦」 となるこのコンサートに臨むにあたって、主催者からの質問にお答えする機会がありました。 現在の私の心境なども合わせてお知らせできると考えましたので、メッセージとして発表させていただくことにしました。 (オペラシティの機関紙treeのための質問に私自身がお答えしたものに、このウェブページ用にさらに加筆訂正しました。)



Q: ピアノを始められたきっかけは、いつ、どんなことで?
A: 5歳のときからピアノを習い始めました。
母が、最初はバレリーナにさせたかったらしく、3歳のときからクラシックバレエを習い始めました。バレエ教室には週3回くらい熱心に通っていたのですが、そこにピアノがありまして、ピアノの先生が来て伴奏してくれる日がありました。それがピアノとの出会いです。
一度聴いたメロディーは、身体の動きとともにすぐに覚えてしまいました。
5歳になったときに、母が近所のピアノの先生のレッスンを何人か見学して先生を選び、その先生にピアノとソルフェージュを習い始めました。 大変熱心で、また褒め上手な先生に出会えたことが、幸運だったと思います。
 
Q: 始めた頃からプロの演奏家になろうと思われていましたか?
A: いいえ、まったく考えてはいませんでした。
積極的に 「そうなりたい」 と感じたのは、19歳のときに初めてヨーロッパへ旅立ったときです。
 
Q: ショパン・コンクールで入賞されてから、ショパンを弾く機会が多いと思いますが、10年計画を考えられたのはどうしてですか?
A: ショパンコンクールに入賞したことで、私の人生は大きく変わりました。 周りを取り巻く状況や自分自身の考え方などもめまぐるしく変化していきました。
しかし、そのように変化していく時の流れの中でも、常に変わらないもの=音楽に対する純粋な想いや、自分が大切にしたいもの、支えて下さる方への感謝などを、あるときから特に強く感じるようになりました。 そういった「変化」と「不変」を時の流れと共に追い続け、記憶にとどめられるような形で歩みたいと考え、この10年計画をスタートさせました。
ショパンコンクール入賞者だから云々、ということではなく、だからといって否定するのでもなく、淡々と、しかしたゆみなく歩き続けたいと思いました。
プログラムも前半を「変化」としてショパン以外の作曲家、後半を「不変」のショパンとし、組み合わせの妙によってショパンの魅力がより惹き出されるよう組んでいます。
「宮谷理香と廻るショパンの旅」と名付けたこのシリーズは、新世紀の始まりであり、私のデビュー5周年の2001年3月1日に第一章を開催しました。
それから、毎年ショパンの誕生日(3月1日)にコンサートを開き、最終第十章の2010年に、ショパンの生誕200年を迎えます。 また、その年には私自身はショパンの亡くなった年齢と同じになります。
 
Q: リサイタルは今まで何回ほどされてますか?そして東京では何回くらいされてますか?
A: 数えたことはありませんが、「リサイタル」は、3月でデビュー8周年なので80回くらいかと・・・
(ほとんどの主要コンサートを、ホームページ上のコンサートスケジュールに発表しています)
東京では、8回くらいかと思います。そのほか、サロンコンサート、レクチャーコンサート、公開講座、室内楽、クラシックの楽しみ方をお話しながら進めるコンサート、などの活動をしています。
 
Q: 今回、B→Cご出演をお引き受けいただいた理由をお聞かせください。
A: お話を伺ったときには、正直、何かの間違いかと思いました・・・・
なぜなら、これまでこのシリーズに登場している演奏家は、現代曲への取り組みで知られている個性的な方々ばかりでしたから。しかし、これは、自分も知らない未知の自分に出会うことが出来るかもしれない、新しいことに挑戦できる大きなチャンスだと思いました。
 
Q: 今回B→Cシリーズご出演ということで考えていただいたプログラムですが、各曲、どのような曲で、なぜ選ばれたのか、教えてください。
A: この機会にB→Cに真正面から取り組みたいと思い、全体をバッハと現代曲としました。

バッハについては、まず、彼のクラヴィーア曲の中でも大胆で規模が大きく自由なファンタジーがあふれる「半音階的幻想曲とフーガ」を弾きたいと思いました。さらに、バッハの楽曲の持つ拡がりや宇宙を、現代のピアノで再現しているブゾーニ編曲を弾きたいと思い「シャコンヌ」。

現代作品の選曲は正直、大変悩みました。
そこで、何を弾いたら自分らしい演奏にたどり着ける可能性があるのか、二つの重要な部分=アイデンティティとテーマを探ってみることにしました。 私は留学経験が無く言葉も堪能とはいえないため、異文化の中では目と耳と、心も感性も研ぎ澄まして全身で感じるようにしています。 演奏の際にも、やはり西洋人ではないわけですから、それぞれの語法を知って、表現につなげるために、いろいろ勉強しているわけです。

そんな苦労を知ってか知らぬかヨーロッパでの演奏時には、「日本人なのだから日本人の曲を弾いてほしい」などと何度も日本人作曲家の作品をとリクエストされた経験も思い出され、「日本人である自分」というところに還ってきました。現在の私と正直に向き合った時、「日本人」としてのアプローチならば、可能性があると考えました。普段の演奏活動の中でも「日本人であり女性であって、ピアノを弾いている」という事実を認識させられる瞬間は多いのです。さらに深く自分としてのこだわりを探り、普段から追求している「ピアノの音/響き」という要素、そして私にとって切り離せないと考えている「踊り/舞曲」の要素を隠しテーマとして導きました。

助川敏弥は、2年位前から交流があって、一度弾きたいと思っていたところ、二つのピアノ曲の「桜まじ」は、私のピアノの音色と出逢って、私のことを考えて書いてくださったということで、後半のスタートにおくことにしました。(「桜まじ」とは瀬戸内海沿岸から宮崎県にかけての方言で、春を呼ぶ風のこと。 桜をまねくという意味がある。三連音符が速く続くPrelude風の曲で、春風がつきぬけるような曲。「Nachtlied」はニーチェの「ツァラトストラ」にある章の名前で、「夜、すべての存在が語りだす」という書き出しで始まる。西洋の観念では「アーベント」というのは、人がまだ起きて活動している時間帯、社交をしたり音楽会へ行ったりの時間帯の事で、それに対し「夜」というのは人が寝静まってからの時間帯の事を言う。)

武満徹については、神経の研ぎ澄まされた音の光、響きの美しさを、以前から弾きたいと思っていました。身近だった方のお話などから、また、著作には時折はっととするような視点の鋭角さがあって、視野を広げるヒントになったり、文章に人間的な親しみを感じていることにも因ります。

伊福部昭は、作曲家自身の言葉で「あちらで組曲というとメヌエットやりゴードンなど舞曲を並べるのが慣例な訳だが、すると日本人が組曲を書く場合、盆踊りやねぶたやながしを並べればいいだろうと思いそういう構成にした」と読んだことがありました。ワルツなどの舞曲を弾くとき、われわれは西洋人で無いためにいつも苦心して表現を探している。それをサラリと「日本人なら」と置き換えているところに逆に強烈なアイデンティティを感じました。マズルカやポロネーズの民族的な、土着のリズムに共感できることも、伊福部作品に挑戦してみようと考えた理由です。この曲を入れるのは勇気が入りましたが、B→Cでなければ弾けないと思いました。

吉松隆プレイアデス舞曲集は、やはり作曲家の言葉から「バッハのインヴェンションあたりを偏光プリズムを通して現代に投影した」「舞踏組曲」とあり、今回のB→Cのテーマにふさわしいと考えました。 Ⅲを選んだのは「聖歌の聞こえる間奏曲」がどうしても弾きたくて。

舞曲の要素を前半のバッハでも「フランス組曲」で加えました。
セイシャシュは、今年12月4日のセイシャシュプロジェクト(知られざる作品を広める会)に参加させていただくのですが、バッハと同時代にこんな作曲家がいたのかと驚かされたので。B→CのBをバロックと解釈をひろげて、コンサートの入り口に置いてみました。 ソナタの3楽章がメヌエットになっています。

現代曲というと 難しいものと敬遠しがちですが、今回弾きますのは 表題も印象的で美しく、響きが研ぎ澄まされた あるいは リズムの面白い、知的好奇心を刺激する曲が並んだと思います。
初めてお聴きいただく曲の中にも、『同じ時代を生きる日本人』として共感していただける音が響くことを願っています。(以上敬称略です)
 
Q: 今回初挑戦される曲はありますか?
A: 全曲です。
 
Q: 宮谷さんにとって、バッハとはどのようなものですか?
A: 現代にも通ずる動かぬ魅力を持ち、音楽を勉強すればするほどその偉大さが感じられる作曲家。
 
Q: 同じく、現代作品とは、どのようなもの、存在でしょうか?
A: 同じ時代に生きるということを人間として共感できる。 しかし演奏については、これまでは、「今」「私が」取り組む必要性を感じる機会があまりありませんでした。 その「今」が、2004年の6月に訪れた意味を改めて問いながら、その日を迎えたいと考えています。
 
Q: 宮谷さんにとって、ピアノとは、またピアノの魅力とはどのようなものですか?
A: 「どう弾くか」、ということが「どう生きるか」に繋がるところ。
 
Q: 今後、目指される方向性、目標などありましたらお聞かせください。
A: 「真・美・善なるものの探求」
 
Q: 今回のように、プログラムの選曲にリクエストがつく演奏会をどのように思われますか?
A: 与えられた枠の中で、自身のアイデンティティを深く探る、貴重な機会になると思います。
 
Q: B→Cに向けての抱負、お客様に聴いてもらいたいところなど、お聞かせください。
A: B→Cの機会を与えていただいて感謝しています。
これまでもこれからも、他ではない、B→Cだけのプログラムで臨みます。
この日は私にとっても新しい自分に出逢う日です。
皆様とともに、この日だけに創りだされる時間、集中を、共有できたら幸せです。


久しぶりのメッセージ、とても長くなりましたが最後まで読んで下さってありがとうございます。
Q&A形式の文章の中に、現在の私を感じていただけたでしょうか。
コンサート会場にて、皆様にお会いできることを心待ちにしています。


2004年 6月 1日
 宮谷 理香

次へ

>>タイトル一覧に戻る

pagetop