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1998.2.9

1998.2.9
デビュー2周年をむかえて


今。いまこのときこの瞬間の心の動きというのは貴重なものです。時の流れや日々の雑事のなかに、徐々にうすれていってしまうものだからです。
“その時どきの思いを大切にしたい”という切なる気持ちが形になって、このウェブページが生まれました。
 デビュー2周年という私にとっての節目の3月をむかえるにあたり、いつものように自分の気持ちが高まってきていました。そんな折、「ムジカノーヴァ」という雑誌から私にエッセイの依頼が来たのです。テーマは自由ということで、今思うことなどを書かせていただきました。
 私のウェブページを訪れて下さる皆さんにも、同じものを読んでいただきたいと考え、今回は『デビュー2周年をむかえて』というメッセージとしてお伝えしたいと思います。


ピアノの月刊誌「MUSIKA NOVA ムジカノーヴァ」音楽の友社刊
1998年4月号 Essayより



心に眠る「美」を求めて        宮谷理香


心をつないで

 この世界には目で見えるもの、耳で聞こえるものだけでなく、見えないけれど、聞こえないけれど存在するものがあると私は思っています。 そのひとつの例として心があります。私にとって心とは非常に身近なものであり、会話や私のウェブページの中でも頻繁に現れています。

 こころ。
 心とは一体何なのでしょうか。

 部屋の中を見回すと、私たちは多くの物に囲まれて生きていることに気づきます。
 私を常に支えてくれる多くの本。心を和ませる花や壁にかかる絵、思い出の写真。私と世界を繋ぐ電話やコンピューターなどの文明の利器。窓から差し込む温かな陽ざし。私に生きがいと使命感を与えてくれた楽譜、ピアノ。
 私は今、感じるままの形容詞を加えました。その結果、ただ単に本とは言わず「私を支えてくれる」とか、花や絵ではその色や画家や作品名ではなく「心を和ませる」という感情が現れ、陽ざしには、「ぬくもりを意味する温かさ」が選ばれました。
 そして、楽譜とピアノに対しては、「生きがいと使命感」という表現をしました。
 これらの言葉を送り出した場所「心」は、本や花、陽ざしやピアノに感謝していることがわかります。
 つまり心とは、人であれ物であれ、自分にとって好意的であるものに対して感謝する気持ちの生まれる場所なのです。

 心とは何なのか、私は思いきって、人にも尋ねてみました。
 いろいろな意見、解釈の中で共通していたのは、心は人にとっての存在の二つの根本的な側面の一つ(もう一つは物質)であるという二元論的なもの。次いで心は精神と同意語で考えるというような心的過程。そして、脳と神経系の活動で、主観的には「意識」として解釈されているというもの。
 多くの人が「心」という特に言葉に対して温かさを感じ、柔らかな響きが身体をリラックスさせる効果があると考えており、外圧から守る役割を認めていました。
 それが「心(が)ある=人を理解できる、優しい」という意味になり、転じて良識の代名詞となっていったのでしょう。

「人間には共通する無意識がある」

 では、心の内側はどのようになっているのでしょうか。残念ながらこの質問に対する明確な答えは見つかりません。
 しかし、興味深いこととしてスイスの心理学者で精神科医であったユングは、「人間には共通する無意識がある」と述べています。フロイトが無意識を人にとっての暗黒の部分と考えていたのに対して、ユングはそこを光にあふれる統一された世界としていました。
 共通する無意識―私が心という言葉を素直に口にできるようになったのは、この言葉を知ってからでした。そしてこのことは、私の音楽活動にも大きな影響を与えました。

 言語、民族、人種、宗教、国籍などが異なる世界で、いかに芸術が理解されるのかを不安視したのは私だけではないと思います。
 ところが、こうした不安をまさに一掃し、すべての壁を取り去るのが無意識なのです。私は、心にある集団的無意識の「無」を「美」と訳したことで、その風景は一変し、暗黒に光をあふれさせることができました。
 この世の誰にも共通する美意識があり、美しい心があります。問題なのは日本人であることではなく、自分の心を見つめないことだと思います。無心とは美心であり、無欲とは美だけを求めることなのですから。

音楽を架け橋として

 1996年3月、デビューリサイタルのプログラムの中で、「音楽は心の架け橋」という表現をしました。あれから多くの方々に支えられて、今、3年目の春を迎えようとしています。
 「心」は常に私の音楽の主題のひとつです。このテーマをこれからどのように展開していけるでしょうか。
 音楽を架け橋として、私たちの心に眠る「美」を探し求めていきたいと思っています



1998年 2月 9日
 宮谷 理香

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