スケジュール Schedule

1997.3.23

1997.3.23
-デビュー1周年を迎えて(II)-


時計の針が午後7時に向かう頃、開演前のざわめきを微かに感じながら、私はいつものように心に映るステージをピアノに向かって歩き始めていました。
 温かい拍手に迎えられ、心が熱くなるような高揚感に包まれて、私はゆっくりとピアノに近づきます。そして、心からの感謝をこめてお辞儀をして、顔を上げたとき、一際大きな拍手に迎えられた瞬間に私の心から輝く橋が生まれ、会場の2千人に向かって伸びていきました。―

*  *  *
 

1996年3月23日:サントリー大ホール、宮谷理香デビューリサイタルから1年が経ちました。開演前に描いた心象風景以上の温かい励ましが実際のステージには満ちあふれており、私はあのとき、精一杯の自分を表現することができました。

 今年の3月23日は日曜日で、運よく仕事も入っていなかったので、久しぶりの休日を家族や中学時代からの友人とともに過ごしました。自宅のキッチンで友人や母と笑いながら料理を作ったり、ケーキを焼いたりしてとても心が和む時間をもちました。

 夕方、ひとりになって何となくピアノの前に座っているうちに、少しづつ翳りゆく誰も聞く人のいない部屋で、私はデビュープログラムをとても自然な気持ちで弾き始めていました。「舟歌」、そして2曲目の「幻想ポロネーズ」を弾き終えた頃には部屋の中はすっかり暗くなっていましたが、次の「ノクターン」を弾かずにはおれず、私はとうとう暗闇の中でそれからスケルツォもバラードも弾ききってしまったのでした。

 誰のためでもないたったひとりの音楽会の最中に、私の心は1997年3月を離れ、時空をさまよっていました。舟歌を弾きながらゴントラに揺られながら眺めた水の都ヴェネチア、ポロネーズを課題曲で弾いたショパンコンクールのステージ、十代最後の夏を過ごしたザルツブルグでのバラード、ふるさとの金沢で弾いたノクターン、日本各地のステージで私を支えてくれたスケルツォ・・・

 振り返れば短いようでも色々なことがあり、私にとっては忘れがたいデビュー1年目が終わりました。大阪、東京でのデビューリサイタル、日本各地でのコンサート、日本フィル、東京交響楽団、東京シティフィルなどとの4回の共演、サントリーホール、東京芸術劇場、国際フォーラムのような大きな会場での演奏経験、パリ、ワルシャワでのリサイタル・・・自分の歩いて来た道であっても、これだけの機会を与えて下さった多くの方々に改めて深く感謝したいと思います。本当にありがとうございました。

 先日には日本ショパン協会より1996年度・第23回日本ショパン協会賞が私に決まったとの連絡を受け、思わず涙がこぼれるほどの幸せに包まれました。

 第13回ショパン国際ピアノコンクールの入賞者として、1996年度日本ショパン協会賞受賞者として、大きな責任と使命感を忘れずに、人の心を和ませる美しい音楽を奏でていきたいと思っています。  デビュー2年目のシーズン97年4月~98年3月もどうぞよろしくお願い申しあげます。


1997年 3月23日
宮谷 理香
 

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